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M-laboratory「Moment of motion」

宮脇有紀 × 三浦宏之 対談

M-laboratory 「Moment of motion」の上演を前に出演者と公演のプログラム・ディレクションをつとめる三浦宏之との対談を行います。一人目は本公演がメンバー参加後、初のカンパニー公演となる宮脇有紀。これまで数々の振付家の作品にダンサーとして出演しながら、最近では自身の作品発表にも力を入れている宮脇と三浦による対談を是非お楽しみ下さい。

三浦:有紀さんはM-laboratoryの公演に出演というのは「Moment of motion」が初めてじゃないですか。今回は私の作品ではないのですが、カンパニーの事業に自分自身が出演するのも初めてですね。今までカンパニーに入っていたことはない?

宮脇:コンテンポラリーダンスっていう枠ではないですね。

 

三浦:オーストラリアにいた時は?

宮脇:その時はバレエ学校に留学していたので、カンパニーという感じではなかったですね。

 

三浦:カンパニーメンバーとしての、自分のポジション、ダンサーとして、振付家として参加することに対して、何か思うことはありますか?

宮脇:もともとバレエ出身なので、バレエでいうカンパニーのダンサーの立ち位置って、どちらかというと与えられたものに対して、枠に当てていくというか、そのために体を作ってダンサーとして準備しているっていう状態だと思うんですけど、今の自分の立ち位置はそうではないし、カンパニーとして目指しているところははっきりしていると思うんですけど、そこへの行き方はダンサーというか一人のアーティストとして任されていると思っていて。だからカンパニーに入って最初の公演が「Moment of motion」っていう自分達で作って自分達のソロで、でも目指す方法はここにあるんだよっていうポジションがあって、そこに向かっていくっていうのは、なんか自分が想像していたっていうか、エムラボに期待をして入ったところと同じ方向でスタートしたんだなっていう感じがしてます。

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三浦:実際、私はね、ちょっと心配していたんです。カンパニーに入って「突然ソロ?」みたいなさ(笑)。でも、そう思ってもらえてるっていうのは嬉しいことです。有紀さんはこれまでに、鈴木ユキオさんや岩渕貞太さん、それにDANCE BOXへのダンス留学(国内ダンス留学@神戸6期)の時は山﨑広太さんの作品とかにも出演しているけど、その時の作品への参加の仕方と、今回初めてですけど、カンパニーへの参加の仕方っていうのは、現段階で何か違いみたいなものは語れますか?

宮脇:語れる程なのかはわからないですけど、時間を継続的にかけて身体感覚を共有していくって、今までの環境だとちょっと難しかったというか、どうしてもこれまではプロジェクト単位で集まって、共有して、その先には本番があって、そこに向かわなきゃいけないというところがありながらの過ごし方だったんですけど、今はエムラボっていう場所に集まって、その時にフォーカスしようとしてる身体感覚に向かって体をシェアしてるっていう時間を長く取れていて、そこはこれまでやりたかったけどできなかったみたいなところがあるので、そこが全然違うなって。組織に入っているんだなって感じっていうか。

 

三浦:そうだね。今カンパニーでそういう仕組みでやっているところは少ないのかも。やっているところはやってると思いますが。エムラボでいうと「からだアトリエ」が今そういうポジションになってるんだけど、日常的に継続して、カンパニーとして稽古していくっていうのはあまり多くないんじゃないかなと思う。本番の何ヶ月か前からリハーサルを始めて、探りを入れていって、というのではなくて、常に継続して身体感覚を共有している状態を作っていく。今、週一でそういう場所が取れているっていうのは、有紀さんが語っている通りなんですよね。また、こうして対談を借りて意思を共有できるっていうのはすごくいいなと思っています。今回、ソロを自作自演するわけで、これまで神戸では作品を2作品発表してるのかな?

宮脇:そうですね。でもちゃんと発表したのは1作品ですね。

 

三浦:一つはダンス留学で発表した「Accord」?

宮脇:そうです、企画の中で。それはグループで作りました。

 

三浦:グループも作っているんだね。

 

宮脇:作りました。「Accord」のプレゼンの時には最初ソロで作って、結果、振付家に選ばれて本公演っていう流れになって、グループ作品になりました。それまでデュオとかソロとかは、学校の中でとか、小さい作品とかは作っていたんですけど、ちゃんと自分で照明も考えて、演出も考えてとがっつりグループ作品を作ったのがその時初めてで。それでその時、結構苦戦しちゃって。自分のやりたいことはあるんですけど、うまく言葉にできなくて相手に伝えられないっていうか、実験的に何度も何度もやってもらいながら自分の中で言葉を探すっていう状態がクリエーションの中ですごく多くて。というのも、自分の身体感覚自体がまだ言語化できてないから全然伝えられない。実際にワークしてみて見つかることが多くて、結構時間がかかったり、あっち行ったりこっち行ったりしてみてやっと辿りついたみたいな状態で。それがきっかけでソロを作るようになったんです。自分の言葉がいるなと思って。

 

三浦:なるほどね。ということは、ソロを作るっていうことはある意味では自分の身体を言語化する作業でもあるっていうこと?

 

宮脇:そうですね。それが人に伝わらなくてもいいんですけど、自分の中での言語化ができるようになりたいと思って。

 

三浦:この前、神戸アートヴィレッジセンターで開催されたダンスの天地vol.02で上演されたソロ「A / UN」だったっけ?それ見たいんですけど、またやらないんですか?

 

宮脇:今度はSTスポットでやります。ラボ20#22に選出いただいて12月に中間発表、来年3月に最終発表という形で。でも、前回の神戸はちゃんとした広さのある舞台だったんですけど、STは小ホールでかなり空間が変わるので...お客さんとの距離もかなり近いし。ちょっと、うーん...だいぶ変わるかなと思っています。やりたい課題は一緒にしているんですけど。

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三浦:一つの作品で、自分の今の身体の中で言語化できないものを言語化していこうという作業が、来年の春まで続くっていうことなんだね。それは是非楽しみにしています。やっぱり、自分の身体とか、自分のダンス、自分の感覚みたいなものを言語化しようって思う、そういう言葉を使うダンサーなり振付家って、今は少数だとは思うんです。ある考え方によっては、言語化したらダンスじゃない、言葉にできたらダンスじゃなくていいじゃないという考え方もあったりして。でも私は、言語化の先にある非言語化がダンス作品だと思っていて、言語化していくことを自分では実践しているのだけど、有紀さんは来年の春までそれを実践できることが決まっている。それはとてもいいことで、またいい時期だなとも思う。そこに来て、M-laboratoryで「カムリノヒカリ」をやるわけですけど、今回は私から4名の出演者に共通のテーマを渡して作品を作ってもらっているけど、作品のタイトルはどういうところからきているんですか?

 

宮脇:今回ソロなんですけど、自分にとってあんまりソロって感じられていなくて、与えられている課題ももちろんあるし、その課題の奥にあるものもなんかいろんな人が関わりすぎていて、なんかこれはもはやソロ作品じゃないなと思って。なので、タイトル作る時もいろんな記憶を呼び覚ますために、いろんな人に話を聞いて結局そこにたどりついた感じです。

 

三浦:「カムリノヒカリ」というタイトルがメールで最初に送られてきた時に、タイトルにある部分掴まれたんですよね。でも作品を作る時に、タイトル先行って難しいよね?

宮脇:はい。難しいです。結構苦手なタイプなんです、タイトル作るの。

 

三浦:だよね...今回は企画公演ということで、宣伝とかチラシに載せるとかでタイトル先行をお願いしちゃったんだけど。でもそのタイトルを載せることで、私みたいにタイトルに掴まれる人もいるかなと思って。今作品はどんなクリエーションの仕方で進めてるの?

 

宮脇:ちょっと動いてみたりとか、頭で構想してみていたりはしています。でもそんなに細かいところまではできてないというか、タイトルを探す時にいろんな人にヒアリングしたものを一つテーマというかキーワードにしていて、そのヒントからリサーチかけてて、ちょっと共通している部分も見つかりつつも、なんか全然違うところにも行ったりもするので、そこを今整理したいなという感じですね。

 

三浦:話を聞いていて湧いてくるイメージとしては、宮脇有紀のソロ作品ではあるんだけど、有紀さんのからだにいくつもの人の身体が介在しているというか、内包されているみたいな感じがちょっとするかな。ヒアリングはいろんな人に聞いたんですか?


宮脇:いろんな人といっても、テーマに深く関わった人たちですね。

 

三浦:なるほどね。テーマをオープンにできないのでここではあまり深く聞けないけど...。なぜテーマをオープンにしないかというと、テーマをオープンにしちゃうとみんなその前情報のイメージで見ちゃうからね。

 

宮脇:オープンにされると、こっちもプレッシャーが(笑)。

 

三浦:だよね(笑)。確かにそうだと思う。作品を作っていく段階で、他者にヒアリングして自分の世界だけでなく、ソロを作り始める時に他者と対峙するっていうのはすごくいい試みだなと思いますよ。具体的に、今回の「カムリノヒカリ」のクリエーションの事じゃなくてもいいんだけど、ソロだから一人でリハーサルするわけじゃないですか?これは皆に聞こうと思ってるんだけど、みんなソロってどうやって作っているんだろうって思うんですよね。

 

宮脇:うーん、私もすごい気になります(笑)。

 

三浦:やっぱりみんなそうだよね(笑)。自分で発想して、自分で動いて、それを何度も何度も繰り返して反芻していくわけじゃない。例えば稽古場とか入った時に、どういう感じなの?

宮脇:どういう感じ?うーん...あんまり最近は目標を立てないようにしています。やりたいことは持っていくんですけど、ここまでやろうとか、ここを目指そうみたいのを持ちすぎると出来ない時に凹むというか、「今日の自分認められない」みたいになっちゃうから(笑)。あと、結構「捨てない」っていうこともやったりします。うまくいかなかったことを二日後ぐらいにやってみると、思わぬ方向に飛んだりすることがあるので、完全にダメだなと思ったものは捨てますけど、意外に何回かやってみたら復活してくることもあるので。

 

三浦:なるほどね。今の話を聞いて、わかりやすいというか共感できるところにいるかなと思いますね。話は少し変わるのだけど、一昨日出演された太田ゆかりさんの作品「Frame」(対談収録日10月11日)と、今年1月に出演された岩渕貞太さんの「曙光」。ゆかりさんの作品と貞太さんの作品は、全く質感が違うわけじゃないですか。驚いたんです。驚いたんですよ(笑)一昨日見て。貞太さんの質感にも対応できて、ゆかりさんの作品の質感にも対応出来る。質感の違う作品に対して自分がダンサーとして出演する時、何か意識的に変えてることとかあるのかな。創作に参加するにあたって「ああ、こういう作品なんだ。」って体感した時に、自分の考え方なり、取り組み方を変えたりとか。

 

宮脇:言葉にしちゃうと軽く聞こえちゃうんですけど、振付家の中に飛び込むというか、なんか、そのまま入るというか。これは自分の考えですけど、すごく凝縮した状態で入ると、なんかちょっと、順応できなくなるというか、そういうのを感じていて、少し余裕がある状態、一枠余裕がある状態で入れるといいかなと思っています。例えば、今日言われたことと、昨日言われたことが違うっていうことがあったりした時も、余裕がある状態だとそんなにからだも驚かないし、自分もその器の中に入っているから揺れていけるっていうか、そういうのはありますね。

 

三浦:基本的に自分のやり方っていうのは一つで、意識的に考え方なり取り組み方を変えることはないということ?

 

宮脇:そうですね、意識的には。でもそれぞれの振付家の身体観みたいなのはすごい見てるというか。自分はせっかくその人の作品に出るなら取りに行きたいと思うタイプなので、ちょっと食ってかかっちゃいます(笑)。

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三浦:でも、あそこまで違う質感をちゃんと両立できるってのは、結構稀有なダンサーだと思いますよね。

 

宮脇:今回ちょっと大変だったのは神戸の作品(「A / UN」)を自分で作ることと、ゆかりさんの創作というかクリエーションの比重が、結構、五分五分ぐらいでバーっと走っていた時期があって、昼間は自分のリハーサルして、夜はゆかりさんのリハーサルしてっていう。その日一日でからだの質感が結構違うじゃないですか。そこの混乱は今回勉強しました。

 

三浦:そうだね。二つの身体感覚みたいなものを自分の中で維持して、日々暮らすっていうのは結構大変だと思うけど、神戸での「A / UN」の方は見れていないですけど、上手くいったんじゃないかなと思いますね。

 

宮脇:そうですかね。でもなんか「A / UN」もゆかりさんの作品も、作品に身体感を生んでもらったなという感覚があるので。「A / UN」はこういう身体性でいこうと決めていたのではなく、この作品に向かおうとしていった先にあったものが、思っていたものとはすごく違ったから、最後の追い込みの時にこんなに違うんだなって(笑)。

 

三浦:二つの異質なものを自分の中で、同時期に両立させるっていうのは面白いですね。今度初めて「Moment of motion」で有紀さんのソロを見ることになるのですが、すごく楽しみなんです。作家としての宮脇有紀をまだ見ていないので。アトリエではダンサーとしての片鱗を見せてもらったり、この前のゆかりさんや貞太さんの公演でも見たりしているけど、作家としての宮脇有紀、ソロダンサーとしての宮脇有紀を楽しみにしているところです。すごく。もう一つソロのことで聞いておきたいんですけど、ソロって自分が振付家でありダンサーであるわけじゃない。そこをどう分けているのか。まず分けているのか分けていないのか。

 

宮脇:うーん。分けているかもしれないですね。まあでも舞台上に立っちゃうと...というか、作品が生まれる瞬間は一体化してるかもしれないですけど、作品と向き合っている時は分けているかもしれないです。その作品に向かっている時は、自分がやっているんですけど、第三の感覚がそこに生まれるというか、自分じゃない立場からからだが生まれていく状態が、クリエーションを通してできるっていうのが、創作する中で好きな部分というか醍醐味だなと感じているので。

 

三浦:なるほど、分けているんだね。意外に僕はそういう感覚がないのかもしれない。

 

宮脇:分けてるって思ってるんですけど、でも周りから見てる人からすると「それはあなたじゃないとできない作品だよね」って言われがちというか。

 

三浦:でも分けれるっていうのは器用なことだなと思うよね。分けれるからいいとか、分けれないからダメということではないんだけどね。ソロ創作の方法論って共有することができないじゃない。でもそこをあえて他者と共有していくっていうことは、多分振付家としての自分にとってもダンサーとしての自分にとってもすごく大切なことなんじゃないかと思うんだよね。今回公演までの間に何回か合同リハーサルを予定しているんだけど、同じ場所でそれぞれが自分のクリエーションをやって、場所を共有するっていうだけでも何かしら絶対に違うんじゃないかなと思うんですよね。一緒に場所を共有するとか、終わった後に話す相手がいるとか、同じところに向かおうとしている人と話をするとか、そういうことをやりたいなと思っていたんですよね。単純にさ、一人でこもってソロを作って、スタッフ総見の時にドキドキしながらスタッフに見てもらうというのではなくて、もう少し、ナチュラルに開かれた状態で経過を踏んでいってほしいと思います。話していると、いっぱい聞きたいことでてきちゃうんだよな...、なんか書いたりします?作品を作る時に。

 

宮脇:書いたりしてます。でも誰も解読できない(笑)。なんか、器用な人って時間軸書いたり、図を書いたりするんですけど、あんまりそういうの得意じゃなくて...でもその時に書きたいからウワッと書いて、後でちょっと見返したり。自分にしかわからないけど。

 

三浦:でもそれでいいんじゃないですか?そのノートを他の人が見て「わかる、わかる。」ってなってもしょうがないわけで。自分の作品を反芻していく過程で、客観的に自分の中にあったものをさ、ここ(ノート)に出すわけじゃない。それを客観視していって、さらにまた内側で動いて、こうなったな、みたいな反芻をすることはすごく大切だなと思います。なんでもいいんだけど、絵でもなんでも、言葉でも、やっぱり書くよね。内面を客観視するっていうこと。

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最後に、11月の公演に来ていただくお客さんに見どころやメッセージなどお願いします。

 

宮脇:こういうのすごく苦手(笑)。

 

三浦:みんな苦手だよね(笑)。

 

宮脇:「カムリノヒカリ」はまだ全然生まれていないもので、それは多分本番、お客さんと過ごす時にやっと生まれる時間になるはずというか。それを望んで作っているので、いろんな人と「カムリノヒカリ」が生まれる瞬間を一緒に、いろんな人と一緒に作品を生みたいなと思っています。なので劇場まで是非足を向けてください。一緒に「カムリノヒカリ」を作ってください。楽しみにしてます。楽しみにしていてください!

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