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あなたがいない世界

04

​上村なおか インタビュー

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(前作「いなくなる動物」(2018年上演)から2作続けての参加になりますが、2作品続けて参加される中で感じられていることがありますか?)


【上村】共通しているところは、三浦さんが作者であるというところと三浦さん自身も出るということ。それに作品タイトルに「いない」とか「いなくなる」という言葉が入っていて、不在についての二つの作品であるという気持ちが私の中に少しあります。不在についての描きかたや動機はそれぞれ違うんですけど、不在についてさらに自分も考えるきっかけになっているなと思います。他に違うことは、他の人たち...他の人たちっていうとさっぱりしすぎてる(笑)、他のダンサーもいるっていうのがやっぱり違っていますね。そこがやっぱり、三浦さんとの向かい方っていうと変だけど、前作のDuoの場合、二人しかいないので、自分じゃない人は三浦さんだけだったんだけど、今回は三浦さん以外の人がいるっていうのは大きく違いますね。さらにいろんなからだがあるっていうことですかね。
 
 
(今回リハーサルを見させていただいて、不在の種類というか、不在というのはどういうことなんだろうということをすごく考えるのですが、以前、小暮香帆さんへのインタビューの時に「いないもの」についてお話をしていただいて、「空間の濃度が違う」という風な表現で言われていたんですが、小暮さんにとってこの作品で感じる不在がそうであるとして、なおかさんは「こう感じている」みたいなことがありますか?)



【上村】まだちょっと、体感として自分の動きや在り方に落とし込めているとはとても言えないんですけど、「いなくなる動物」というのは未来の不在についての作品だったかなと思っていて、想像力というか「こうなるんじゃないか」と未来感覚があったんですけど「あなたがいない世界」っていうのは、そういう世界が事実として既にあるというところがある種の変えがたい設定としてあって、まあそのことについて、いる人はどうするのか?(笑)っていうね。検証っていうと堅いですけど、実験というか。いない世界を様々な形やからだで、からだだけじゃなくてもうちょっと内的なこともきっとあると思う。その検証。「いなくなる動物」の場合はいなくなるっていう予感は強くて。その予感に向けての実感の強さと今回の「ここに現前とある状態」についての感覚の持ち方っていうのが、違う種類の強さがあるのかなと。なんか抽象的ですみません。
 
 
(いえ、なんとなくおっしゃっていることがわかります。未来に向かうベクトルとすでにあるものへ向かうベクトルがある感じ。)
 
 
【上村】私も聞かれてみて言語化すると、そうかぁって思いますね(笑)。まだそこまでいってないんですけど、不在について、自分なりの、作者なりの、多分思いっていうのがきっとあって、それは別にセンチメンタルとかじゃなくて、それを今後の稽古で共有していけたらと思います。まだまだなんですけど、そこはすごい課題です。


 
(本番まで3週間を切ったところなのですが(インタビュー収録日は2月12日)、あっという間に本番の日が近づいてきたなという感じがするのですが(笑)。特に1月2月は世間でも過ぎるのが早いと言われていますが。)
 
 
【上村】その前の師走だって走っているからね(笑)。特に去年の夏から11月まで「いなくなる動物」のツアーで、ずっと長い時間をご一緒していたので、その後の空白時間みたいなものが、それもまたいなかった時間というかね。それがなんか早くて(笑)。早いんだけど、いろんなことが動いていて。その不在時間の流れの速さ、それぞれの時間の速さが早くて、いろんなことが起きてて。なんていうのかな...うん。厳しさっていうのもちょっと適していないんですけど、無常感みたいな(笑)。やっぱり時間の流れには必ずあるんだなっていう感じがしますね。無常感は常では無いっていう無常もあるし、情け容赦無く時間が流れるっていうか、その両方の「むじょう」っていう感じかな。

(為す術も無くっていう感じでしょうか。)


 
【上村】そう、為す術も無く。でも多分そこで、やっぱり自分それぞれの意思でもって、それをなんとかするのがきっと、ね。生きるってことなのかなって。
 
 
(意思というところで、例えばなのですが、ご自身の作品を踊るときと人の作品を踊る時の意思決定の仕方は違ったりするんですか?意思決定という言い方が適切かどうかはわからないんですが、ダンサーとしてという部分で。)
 
 
【上村】意思っていうものは全てのことに働いていて、ちょうど今「意思」について考えることがあって、ここ数日、色んな人とそのことについて話しているんです。意思がないと何も始まらなくて、例えば一つ点があったとしてそこから何かに向かおうとした瞬間に、行動に移すのは意思で、それを行動に移すと意思は一回見えなくなるっていうか、消えちゃうものなんだねっていう話なんですけど。自分の作品の場合は...そうだね、やっぱり自分で作っているから自分と最初から結びついたところに意思があって、他の人の作品に出る時には、その自分の意思と、その作家さんの「向かうぞ」っていう意思というか熱みたいなものに、その熱に自分の意思も溶け込ませれるっていうのがありますね。そういうのが無いと共同でやるっていうことは難しいんだろうなという感じがするんですけど。

(意思を決めるのは自分でしか無いけれど、何を以ってその意思を掴み取っていくかというのは、自分の外に理由があるのではないかなという気がするのですが。)


【上村】確かに。ソロを踊る場合もそうですね。自分と結びつけているけどなんか、必ずそうですね。
見ていてくれている人がいるっていうことが、存在しているっていうことがすごいことで。
 
 
(観客の皆様がそうですね。)
 
 
【上村】そうか。そうですね。舞台上の全員の意思を見ているのはお客さまですね。
 
 
(本番を見てくださるお客さま、そしてこのインビューを読んでくださっているお客さまに向けて一言いただけますか?)
 
 
【上村】お客さまと、演ってる人(出演者)の共通点はやっぱり自分自身もそのうちいつかいなくなる存在だということ。互いにいなくなる存在、もう既にいない存在って思うと、世の中は不在だらけで、その不在とどうやって付き合っていくのかっていうこととか、作品を通して何か共有できるものがあったらいいのかなって。不在を見つめるとか、不在を実感するっていうのは楽しい作業かどうかはわからないですけど。それについて、この作品を見て何か感じてもらえたらいいなと思うし。私も感じたいな思いますね。
 
 
(ありがとうございます。不在って、決してこうポジティブ要素の強い言葉ではない気がするんですけど、不在っていうことは在ったということで。そう考えると、感じる不在は少ない方がいいなと思うのですけど、不在を感じることで幸せだったなって思えたりするのかと。長い時間で考えると。)
 
 
【上村】そうですね、不在の存在に助けられて生きているのかもしれないですね。

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上村なおか

 

石川県金沢市生まれ。幼少よりバレエを始める。木佐貫邦子にダンスを、笠井叡にダンスとオイリュトミーを学ぶ。身体の発見と冒険をキーワードに'95年より自作ソロダンスを開始。ソロ以外にも、様々なジャンルのアーティストとの恊働作業やセッション、ワークショップを通して身体による交流・交感を積極的に行っている。近年では<笠井瑞丈×上村なおか>としても継続的に活動中。

第36回舞踊批評家協会新人賞受賞。

桜美林大学芸術文化学群などで講師を務めている。http://www.naoka.jp/

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